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2017.02.10

マーベル・コミックス

キャプテン・アメリカとソーに迫る過去の因縁!
マーベル・オリジナル・グラフィックノベル
『アベンジャーズ:エンドレス・ウォータイム』

今回は、『アベンジャーズ:エンドレス・ウォータイム』をご紹介します。本書は、マーベルコミックスが2013年12月に刊行をスタートした『マーベル・オリジナル・グラフィックノベル』シリーズの第1弾にあたる作品です。

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「グラフィックノベル」とは、1978年にウィル・アイズナーが発表したコミック『神との契約』を嚆矢とする、いわゆる「大人向け」コミックを指すジャンル名です。
当時は子供に向けて作られていた「コマが割られてセリフが入る」スタイルでありながら、連載方式はとらないこと、内容も表現も大人の鑑賞を意識して作られていることなどがその特徴と言えるでしょう。
1980年代に入り、アメリカンコミックス業界では、グラフィックノベルが多く出版されるようになりました。その流れに乗るように、1982年にはマーベルコミックスも『マーベルグラフィックノベル』を創刊します。
子供向けのコミックブックと、より大人向けのグラフィックノベルという2枚看板のもとに出版を続けたマーベルコミックスですが、アメコミのファン層が変化するに従い、コミックブック自体が徐々に大人向けの内容へとなっていきました。次第に「子供向け」「大人向け」を区別する必要は薄れていき、1993年に『マーベルグラフィックノベル』は幕を閉じたのでした。
それから20年、マーベルのコミックブックは主に大人に向けた内容で出版され続け、長期連載形式という当初からのスタイルを続けています。
そんな中「単発で大人向けの物語を楽しめる」グラフィックノベルが復活することになりました。それが『マーベル・オリジナル・グラフィックノベル』シリーズなのです。
その第1弾の主人公に選ばれたのは、アベンジャーズ。チームメンバーや設定は、2013年時の「マーベルNOW!」に準じているものの、そうした連載ものとは設定の関連がない、この1冊から読み始めることができる独立したストーリーとなっています。

会議のため、アベンジャーズ・タワーに集まったメンバーたちは、中東の小国スロレニアでの紛争に、アメリカ軍の無人兵器が投入されたことを知ります。
キャプテン・アメリカはそれが第二次世界大戦中に破壊したはずの、ナチスの超兵器ヴァンダーヴァッフェによく似た形状をしていることに気づき、ソーはその無人兵器の「生体」部分が、アスガルドから第二次世界大戦中のミッドガルド(地球)へと逃げ出した邪悪なドラゴンであることに気づきます。現場に向かったアベンジャーズは、その無人生体兵器「アイスハリアー」と交戦。
ナチスの超兵器とアスガルドの邪悪なドラゴンを融合させた強力無比なこの兵器を、一体誰がどのような意図を持って作り上げたのか…という真相に迫ることになります。

ライターは、映画『アイアンマン3』の原案ともなった『アイアンマン:エクストリミス』を手がけたウォーレン・エリス。
過去からやってきたキャップとソーの因縁の敵と、現在アベンジャーズを脅かす陰謀が複雑に絡み合う物語は、要所要所に迫力のあるアクションシーンを加え、コンパクトながらも読み応え満点です。
また「大人向け」を謳うグラフィックノベルらしく、ヒーロー同士の関係性や、各人の思いなど、キャラクターがとても掘り下げられているのも特徴です。コミックブックよりも一歩踏み込んだ描写に唸らされること間違いありません。アイアンマンと他のメンバー間にある距離感を「大人向け」で書くとこうなるのか……など、細かい見どころも詰め込まれています。

連載方式で次々と起こる事件を追っていくのも、アメリカンコミックスを読む醍醐味なのは確かですが、しっかりと練り込まれたこうした「大人の」物語を、1冊完結という形で読むというのは、それとは異なる種類の面白さがあります。
現在邦訳版が刊行されている「マーベルNOW!」とはひと味ちがう、『マーベル・グラフィック・ノベル』が送る大人な味わいを楽しんでみてはいかがでしょうか?

文・石井誠(ライター)

2017.01. 6

マーベル・コミックス

アスガルド追放! ミヨネア破壊!
ソーはロキとDr.ドゥームの陰謀からアスガルドを救えるのか!?
『ソー Vol.3 -別離-』

今回は通販限定「マーベル・マスト・リード」シリーズ『ソー Vol.3 -別離-』を紹介します。
雷神ソーの復活と新しいアスガルドをめぐって展開してきたシリーズの締めくくりとなる一作です。

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J・マイケル・ストラジンスキーが手掛けた、ソーの復活譚である『ソー』3部作は、時系列としては『シビル・ウォー』『シークレット・インベージョン』『シージ』のメインとなる物語の裏で展開してきました。そして本シリーズで語られた新しいアスガルドの物語は、『シージ』においてメインストリームに合流、大局の鍵を握る存在としてクローズアップされていきます。

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アメリカの片田舎に再建された神々の国アスガルド

『ソー』の物語は、アスガルドで繰り返される死と再生の運命の円環「ラグナロク」を断ち、虚空に消えたはずのソーの復活、そしてアメリカのオクラホマ州上空にアスガルドを再建するところから始まりました。
『ソー Vol.1 -帰還-』においてソーは、アスガルドの完全復活のため、記憶を失い人間となって暮らしていたアスガルドの神々を捜し出し、本来の姿へと立ち返らせていきます。
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その中には女性に転生し、姿と共に心も改めたかに見えたロキの姿もありました。
しかし案の定と言うべきか本性を隠していたロキは、ソーを陥れ、アスガルドを手中に収めるべく時空を超えた暗躍を始めます。

ソー Vol.2 -邂逅-ラストにおいて、ソーはロキによって復活させられた祖父ボルと戦い、これを祖父と知らぬままに打倒。結果、肉親殺しの罪を負ってアスガルドを追放されることとなってしまいます。またボルの硬い肉体に魔法の鎚ミヨネアを振るったために、ソーの身体の一部とも言えるミヨネア自体も破損してしまいました。

ついに牙をむくロキの陰謀

『ソー Vol.3 -別離-』は、王位を失い、故郷アスガルドを追われ、ミヨネアは壊れかけという、ソーにとって凄まじい逆境から始まります。二心同体と言うべき人間体ドナルド・ブレイクの姿となり、愛する女神シフ復活のために動き始めるソー。
一方で、ソーの義弟ボールダーを新王に立てたアスガルドは、なんとDr.ドゥームの統治する国家ラトベリアへの移住を決定します。ロキと通じて便宜を図ったDr.ドゥームに裏の意図が無いはずもなく……。
一方、この『ソー』シリーズの見どころのひとつとして、浮世離れしたアスガルドの神々とアメリカの片田舎であるオクラホマの住人たちの、文化的ギャップの激しいコミカルな交流があげられます。特に女神ケルダと恋仲になった青年ビルは、このシリーズのもう一人の主人公と言うべき存在。美しい風の女神とダイナーの店員というギャップを越えて愛を貫く決意を持ったビルは、彼女を追ってラトベリアへと向かいます。
シフを救うため傷ついた姿で奔走するソー、ケルダやアスガルドの民のために行動すべく決意をするビル。はたして、二人の行動はどのような結末を迎えるのでしょうか……?

ソーの物語は、この後に展開する「ラトベリアン・プロメテウス」編(未邦訳)を経て、『シージ』で『ニューアベンジャーズ:ブレイクアウト』から続いてきたマーベル・ユニバースのメインストリームの物語と合流。巨大なクライマックスへと繋がっていくことになります。
オクラホマに再建されたアスガルドは、『シージ』におけるラストバトルの舞台となる場所です。しかしその背景に関しては、ニューアベンジャーズを中心としたストーリーの中ではあまり語られることがありませんでした。メインシリーズのフォローアップの意味でも、この『ソー』3部作は必読(マスト・リード)であると言えるでしょう。

特別収録の二編

また本書には邦訳版特別編集として、ミニシリーズとして展開された『シークレット・インベージョン:ソー』が収録されています。タイトル通り、『シークレット・インベージョン』の直前にあたる物語ですが、『ソー』シリーズの時系列的にはちょっと前後する形で、前巻『ソーVol.2-邂逅-』に収録の『ソー』v3#10(ボールダーがアスガルドの王子となるエピソード)の直後に位置しています。
地球侵攻を開始したスクラル人は、その先触れとして地球の神々が住むアスガルドに狙いを定めます。それに対し、ソーは三戦士や彼の異星の兄弟とも言える戦士ベータ・レイ・ビルと共に立ち向かうのですが、スーパースクラルのパワーの前に思わぬ苦戦を強いられることとなり……。
『シークレット・インベージョン』本編クライマックスで特に説明もなく戦列に加わっていたソーですが、その背景にはこのミニシリーズで語られた事情があったのでした。これもまた、『シークレット・インベージョン』本編を補う意味でもマスト・リードのミニシリーズです。

さらに本書には『シークレット・インベージョン:ソー』で描かれたソーとスーパースクラルの対決に合わせる形で、1967年に刊行されたソーとスーパースクラルの初対決を描いたエピソードも収録。スタン・リーとジャック・カービーというアメコミ界のレジェンドが描いたバトルのおもしろさを併せて楽しむことができます。

この『ソー』3部作は、ニューアベンジャーズを中心としたメインストリームの流れに比べて派手な対決などは少ないかもしれません。しかしソーとアスガルドの再生をテーマに、アメリカの片田舎に現れたアスガルドの神々のキャラクターを、さらに掘り下げたシリーズだったと言えるでしょう。まさにその地上から少しだけ浮いたアスガルド同様、地に足が着くようで着かない彼らの織りなす物語は、彼らのファンでなくとも楽しめるものとなっています。
勿論『シビル・ウォー』『シークレット・インベージョン』から『シージ』にまでまたがる物語のフォローアップとしても必読のこのシリーズ、3冊揃ったこの機会に是非メインストリームとクロスオーバーさせながら読んでみてはいかがでしょうか。

文・石井誠(ライター)

2016.12. 6

マーベル・コミックス

多元宇宙崩壊の危機にイルミナティ復活!
『ニューアベンジャーズ:エブリシング・ダイ』

今回は邦訳第6弾であり、『ニューアベンジャーズ』第3期シリーズのスタートを切ると共に、「マーベルNOW!」が迎える初の大型クロスオーバー『インフィニティ』(2017年発売予定)へと繋がる作品『ニューアベンジャーズ:エブリシング・ダイ』を紹介していきます。

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ニューアベンジャーズ』のタイトルは、これまで2004年~2010年まで続いた『ニューアベンジャーズ:ブレイクアウト』から『シージ』までの第1期、2010年~2013年のルーク・ケイジを中心にチームが再編され、『ヒロイックエイジ』シリーズと絡んだ第2期(未邦訳)がありました。本作『ニューアベンジャーズ:エブリシング・ダイ』は、マーベル全シリーズのリニューアルキャンペーン「マーベルNOW!」と合わせてスタートした第3期の冒頭エピソードにあたります。
この第3期『ニューアベンジャーズ』タイトルで活躍するのは、アイアンマン、Mr.ファンタスティック、Dr.ストレンジ、ブラックボルト、サブマリナーという、ヒーローコミュニティ内の重鎮たちが集まって結成した秘密結社「イルミナティ」のメンバー。
そこに、ワカンダの王ブラックパンサー、死亡したプロフェッサーXの代わりにインフィニティ・ジェムを受け継いだビーストが加わる形となっています。
秘密結社「イルミナティ」のメンバーが持つ背景は、『ニューアベンジャーズ』第1期内のミニシリーズとして展開した『ニューアベンジャーズ:イルミナティ』(通販限定)の物語を引き継いでいます。

シリーズ全編を通して語られる宇宙的危機「インカージョン」とは?

ブラックパンサーが治めるアフリカの小国ワカンダでの宇宙的異変を解明するため、再召集されたイルミナティの面々とキャプテン・アメリカ。
彼らは謎の女性、ブラックスワンによって、異なる次元に存在する地球同士が次々に引き合い衝突を起こす「インカ―ジョン」が起こっていることを知らされます。
自分たちが住む地球を守るためには、同様に人間が住む別次元の地球を破壊するべきなのか?
犠牲か、滅亡か。
ヒーローの中でもトップクラスの能力者で、人々を守るためならば一線を越える覚悟を持つイルミナティが選んだ結論とは?
本作ではこの多元宇宙の崩壊という巨大スケールの危機によって、彼らの厳しくも魅力的な一面が描き出されていきます。

『シビル・ウォー』に代表される第1期『ニューアベンジャーズ』シリーズの大型クロスオーバーでは、シリーズライターのブライアン・マイケル・ベンディスによって「正義と悪」「アメリカという国家や社会」などをテーマに、ヒーローのあり方が描かれてきました。
「マーベルNOW!」において、そうしたシリーズ全体の物語を紡ぐ役目は、ジョナサン・ヒックマンという新鋭のライターに受け継がれました。ヒックマンによるSFやファンタジー要素の強い、尋常ではない規模の物語は、かつての『クリー/スクラル戦争』、『シークレット・ウォーズ』、『インフィニティ・ガントレット』といった大作クロスオーバーで描かれた要素を、いかに現代的な形で甦らせ、表現していくかというテーマをも持っているのです。

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「マーベルNOW!」でリニューアルした各タイトルもそれぞれ大事件から物語のスタートを切っていますが、『ニューアベンジャーズ:エブリシング・ダイ』はその物騒なサブタイトル(エブリシング・ダイ=すべてが死ぬ)の通り、そうした大事件を大幅に上回るレベルの事件が描かれます。
これと同じく宇宙的スケールの厄災が起きているのが発売中の『アベンジャーズ:アベンジャーズ・ワールド』。宇宙を旅して種の再創生を行う者たちと、アベンジャーズの物語は、『アベンジャーズ:ラスト・ホワイト・イベント』(2017年1月発売)を経て本作『ニューアベンジャーズ:エブリシング・ダイ』と合流。「マーベルNOW!」初となる大型クロスオーバーである『インフィニティ』へとなだれ込み、怒濤の展開を見せていきます。
来たる『インフィニティ』を楽しむためにも、シリーズ時系列順に『アベンジャーズ:アベンジャーズ・ワールド』→『ニューアベンジャーズ:エブリシング・ダイ』→『アベンジャーズ:ラスト・ホワイト・イベント』の三冊の通読がお勧めです!

文・石井誠(ライター)

2016.11.22

マーベル・コミックス

監査官の追及からベイダーは逃れられるのか?
『スター・ウォーズ:ダースベイター 偽りの忠誠』

12月14日の公開まで1ヶ月を切った、『スター・ウォーズ』のスピン・オフ作品となる『ローグ・ワン/スター・ウォーズ・ストーリー』。最新の予告編では、ついにダース・ベイダーも登場し、ファンとしては盛り上がらずにはいられない状態です。そして何より『エピソードⅣ/新たなる希望』につながる物語ということもあって、昨年の『スター・ウォーズ/フォースの覚醒』に負けず劣らず事前の期待値が高まっているのではないでしょうか。

そんなスター・ウォーズが世間的に盛り上がる中、今日は『エピソードⅣ/新たなる希望』直後のダース・ベイダーを描くコミック版『ダース・ベイダー』シリーズの第2弾となる『スター・ウォーズ:ダースベイター 偽りの忠誠』を紹介します。

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自身が計画した強奪事件を隠蔽&捜査!

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シリーズ1作目『スター・ウォーズ:ダース・ベイダー』((紹介記事はこちら、『エピソードⅣ/新たなる希望』でのデス・スター破壊により降格されてしまったダース・ベイダーが、失地回復すべく極秘で行動をおこす姿が描かれました。ベイダーは女性盗賊考古学者のドクター・アフラ、拷問ドロイドのトリプルゼロ、暗殺アストロメクドロイドのBT-1と行動を共にし、ドロイドで構成された私兵部隊を作り上げます。その一方でベイダーは、賞金稼ぎのボバ・フェットを雇い、デス・スターの破壊に貢献したある反乱軍パイロットの正体を探らせていました。その結果、探していたパイロットが、それまで存在をも知らなかった実の息子であることがわかり、ベイダーは息子を自分のもとに引き入れることを考えるようになります。

1作目でのこうした状況を踏まえてスタートした本作。その冒頭で、ベイダーはドクター・アフラと共にタトゥイーンに降り立ち、かつてルークが住んでいた家、そしてオビ=ワン・ケノービが隠遁していた住まいを訪れます。そこでベイダーは、彼らのこれまでの生活と、ルークとボバ・フェットとの戦いの痕跡から、ルークがまだジェダイとなるための修行を積んでいないことを知ります。ベイダーはルークを探索すべく、ドクター・アフラに新たな極秘任務を任せます。

それはベイダーが自ら押収し、帝国軍の輸送船に運ばせていたクレジットを、自らの目的達成の資金とするため、強奪するというものでした。ドクター・アフラはその任務を遂行するため、名うての賞金稼ぎを雇い、クレジットの強奪に成功します。しかしその後、ベイダーには自身が企てた強奪事件の犯人を捕まえるという任務が与えられます。有能で抜け目のないサノス監査官に見張られながら、ベイダーはドクター・アフラの跡を追うことになるのですが…。

強奪作戦の隠蔽と捜査を同時に行うベイダーは、どう事態を収束させていくのでしょう?事態をうまく乗り切れるかと思いきや、すぐに新たな不都合が生まれ、それを解決するためにまた行動し…という目まぐるしい展開は、これまでのスター・ウォーズ作品にはないものです。

また、1作目同様、ダース・ベイダーとドクター・アフラの奇妙なバディ関係が印象的な本作ですが、それ以上に目を引くのが、ダース・ベイダーのルークへの執着です。ルークのこれまでのいきさつを知り、感情が揺さぶられるベイダー。それは、彼が人間的な感情を取り戻しているようにも見えます。そして、その思いは『エピソード6/ジェダイの帰還』の終盤の展開にもつながります。『スター・ウォーズ:ダースベイター 偽りの忠誠』は、そんなベイダーの心の動きを再確認させてくれる1冊となっています。

文・石井誠(ライター)

2016.11.16

マーベル・コミックス

『スパイダーバース』で異彩を放ったあのスパイダーマンが登場!
『スーペリア・スパイダーマン:ワースト・エネミー』

今年の邦訳アメコミの中で大きな話題となった、多元宇宙のスパイダーマンたちとインヘリターズとの次元を越えた戦いを描いた『スパイダーバース』

その物語の中で、重要なポジションを占めたキャラクターと言えば、ピーター・パーカーの身体にDr.オクトパスの精神が宿った「スーペリア・スパイダーマン」です。ピーター・パーカーの超人的な体と、冷酷かつ合理的な頭脳を駆使して戦う姿は、「スーペリア」(より優れた)の何に恥じぬキャラクターであったことは間違いないでしょう。そのため、多くのスパイダーマンの中でもひときわ強い存在感を発揮しました。

以前の『スパイダーバース』のレビューで、ピーター・パーカーとDr.オクトパスと精神が入れ替わった経緯については簡単に紹介しましたが、その衝撃的なエピソードが収録された待望の『スーペリア・スパイダーマン:ワースト・エネミー』が刊行されたので、今回はその辺りのストーリーを解説していきたいと思います。

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節目の記念号で起きた「大事件」

本書に掲載されている『アメイジング・スパイダーマン』誌の記念となる通算700号の発売は2013年の2月でした。そして、その前年である2012年は、1962年に誕生したスパイダーマンの生誕50周年となるアニバーサリーイヤーで、アンドリュー・ガーフィルド主演の映画『アメイジング・スパイダーマン』は、その記念作品でもありました。2012~2013年はスパイダーマンのアニバーサリーとして盛り上がっている時期だったのです。

そんな「スパイダーマン、おめでとう!」という雰囲気の最中、マーベル・コミックスが発売したのが、本作の冒頭に収録された「アメイジング・スパイダーマン」#698です。

スパイダーマンとの長年の戦いによってオットー・オクタビアスの身体は限界に達し、余命1年と宣告されていました。急速に衰えていく身体を機械で補強しながら、スパイダーマンに戦いを挑み続けていましたが、勝利することはできず、重犯罪者専用刑務所ラフトに収監されてしまいます。生命維持装置につながれたオットーの命の灯火は消えようとしていました。そんな状況の中、彼は宿敵であるピーター・パーカーの名を呼びます。

宿敵の臨終に呼び出されたスパイダーマンはオットーと面会しますが、そこでオットーは「僕はピーター・パーカーだ」と呟きます。

ラフトに収監されていたオットーは、自分の意思で遠隔操作できるオクト・ボットをピーターに差し向け、自分の精神と記憶をピーターの脳に上書きし、逆に瀕死の自分の脳にピーターの精神と記憶を上書きすることで、互いを入れ替えることに成功していたのでした。ピーターの身体に精神を移したオットーは、身動きすらできないピーターに勝利を宣言します。

瀕死の身体に囚われたピーターは、オットーを止めるために、オクト・ボットを使って3人のヴィランを集め、ラフトからの脱走。その後、オットーの秘密基地と機材を使い、ピーターは自身の身体を取り返すために行動します。しかし、長年の戦いの経験から相手の手の内を読み尽くしているオットーによって、ピーターはさらなる窮地に陥ります。

オクト・ボットを使った再度の精神交換も失敗に終わり、ピーターは最期の時を迎えることになります。しかし、精神交換は失敗してしたものの、オクト・ボット経由でピーターの思考が流入したことにより、オットーは死の直前にあるピーターの人生を追体験することになります。

ピーターの過酷な運命を知り、その責任の重さに耐えられないと思うオットー。大いなる力には、大いなる責任が伴う――ピーターはその言葉と共に、記憶と経験の全てをオットーに継承し、オットーの肉体と共に力尽きます。そして、その意思を継いだオットーは、新たな善を成すためのスパイダーマンとして生きることを決意します。ここに、スパイダーマンを越えたスパイダーマン、スーペリア・スパイダーマンが誕生したのです。

これまでにない新たなヒーローを描くシリーズ!

700号記念&スパイダーマン生誕50周年という2つの大きなアニバーサリー、その盛大なお祝いのラストを飾るはずのエピソードは、ピーターの死、Dr.オクトパスがスパイダーマンになるという衝撃の展開で幕を閉じます。

筆者は当時、アニバーサリーということもあって、本書のコミックブックをリアルタイムで読んでいましたが、「ピーターが苦闘の末に自身の身体を取り戻し、ハッピーエンドを迎えるだろう」と思いこんでいました。

本シリーズの途中、ピーターが、ベン叔父さん、グウェン、ステーシー警部ら、かつて救えなかった人たちが平和に暮らす「あの世」を目撃します。そうした感動的な挿話や、所々で現れるベン叔父さんの幻影、こうした事象と相対することで、スパイダーマンの700号にわたる戦いを総括し、死と向き合ったからこそ生み出された新たなスパイダーマンの生き方が示される……そんな展開を予想していたわけですが、その予想は大きく裏切られ、びっくりした記憶があります。

そして、700号続いてきた『アメイジング・スパイダーマン』はこの号をもって終了し、物語は『スーペリア・スパイダーマン』として新たにスタートします。この作品は、「善」と「悪」を相対化した、これまでにないヒーローを描く新しい視点をもったシリーズです。

ピーターの意思を継いだとはいえ、オットーはピーターとはまったく異なる形で事件を解決していき、同時に、距離を置いていたメリー・ジェーンとの関係にも変化が訪れます。仕事とプライベートの両立に失敗していたピーターと、その両立を成し遂げようとするオットー。ピーターとの対比が際立つこの展開は、スパイダーマンが好きな人ならより楽しめるはずです。一方で、オットーの悪の側面も垣間見えます。倫理観の無さ、自己顕示欲の強さから、敵を過度に叩きのめしたりと、やり過ぎてしまい、ピーターとは違った形で読者をヤキモキさせてくれます。こうしたオットーの物語は、これまで描から続けてルーチンになりがちだったピーターの日常への、カンフル剤として機能しているとも見えます。

スパイダーマンの物語としては異色で反則ギリギリのストーリー。読者の予想を大きく裏切るような大胆な試み。アメコミならではの楽しさを味わえる1作になっていると思います。

文・石井誠(ライター)


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ドクター・ストレンジ:ウェイ・オブ・ウィアード

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