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2013.09.10

マーベル・コミックスその他

【石井誠のアメコミレビュー】『ウルヴァリン』

どうも、ライターの石井です。

映画『ウルヴァリン:サムライ』の公開が近づくのに合わせて、テレビスポットも多く目にするようになり、日本を舞台にしたヒュー・ジャックマン演じるウルヴァリンの活躍を描く映像の数々を見れば見るほど、アメコミファンならば否が応にも盛り上がってしまいますね。

そんな、公開直前でテンションが上がっている状態だからこそ読んでおきたいのが、先日発売された『ウルヴァリン』。この作品は映画『ウルヴァリン:サムライ』の原案であり、さらに多くのファンに支持される名著でもあるので、読んでおいて損はない1冊であることは間違いありません。

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映画のネタバレが気になる方、何も情報を入れずに映画を楽しみたいならば、公開後に読むことで、作品をより深く楽しむことができる内容にもなっています。

本作がアメリカで発表されたのは、今から約30年前の1982年、当時すでに人気キャラクターとなっていたウルヴァリンの初の個人誌として、4冊のミニシリーズとしてリリースされました。

作品を手掛けたのは、1970年代後半から『アンキャニィX-MEN』のライターとして活躍し、X-MENシリーズの黄金期を牽引したライターのクリス・クレアモントと、『デアデビル』でハードなクライムアクションを描きアメリカンコミックスの新たな可能性を示したフランク・ミラー。アメコミ業界で頭角を現し、当時注目されていた2人のアーティストが手を組んで、人気キャラクターの人間性をより深く掘り下げるべく描いています。

X-MENのメンバーの中においても、野性味あふれる荒くれ者として圧倒的な存在感を示していたウルヴァリンですが、単体のキャラクターとして深みを与えるべく選ばれたテーマは、「日本を舞台にする」ということと「サムライ」という要素でした。

近いようで遠い日本独特の様式を背景に、義理堅い「サムライ」的なキャラクター性が加わることで、老練な経験値的を持ち、深い洞察を行うウルヴァリンの人間性に説得力を持たせられると考えたのでしょう。そして、そのもくろみは本書でうまく達成されることになります。

とは言え、いきなりなぜ、ウルヴァリン=サムライという関連性が出てくるのか、不思議に思う人も多いでしょう。そこには、当時のアメリカの世相というか、流行が反映されているんです。

実は1980年頃のアメリカでは、あるテレビドラマの影響でちょっとした日本ブームが起こっていました。その作品は、『将軍 SHOGUN』。江戸時代初期に日本に漂着したイギリス人航海士の目から見た、日本の社会制度や文化の違いに始まり、武士の持つ「義理」を重んじる価値観などが提示され、アメリカ人にとっては大きなカルチャーショックを与えたと言われています。

当時すでに公開されていた黒澤明監督による時代劇映画もヒットし、日本の様式は既に認知されていましたが、そこに加えて自分たちと感覚が近いイギリス人が日本で見聞きした精神論の違いなどは、当時のアメリカ人の日本感を大きくかえたと言われています。

そして、その中でも武士の持つストイックな精神に対して、憧れを抱く人が多く、80年代は、アメコミや映画などでもそうした要素がどんどん取り入れられた時代でした。

一方、ウルヴァリンも『アンキャニィX-MEN』で日本を舞台にしたエピソードでは、日本語に堪能であるという描写があり、そこに当時の日本ブームという状況が重なれば、ウルヴァリンのキャラクター性の掘り下げに武士の持つ価値観を盛り込まれていっても決して不思議ではなかったわけです。また、フランク・ミラー自身も小池一夫原作、小島剛夕画の『子連れ狼』のファンであり、武士のストイックさと日本刀をかざして危険に身をさらすバイオレンス的な要素に強く影響されており、自分自身で「武士」を描いてみたいという思いもあったと思われます。

こうした経緯から、日本を舞台にしたウルヴァリンの物語が誕生したわけです。

物語は、かつて日本に訪れた際に恋仲になった女性・矢志田真理子の変事を察したローガンが、日本に向かうところから始まります。

現在に比べると、日本の社会に対する理解度が低くて、時代錯誤感が強い展開や描写になってはいます。しかし、そこがパロディ的に描かれているのではなく、当時のアメリカで判る範囲で日本を理解、リスペクトし、可能な限り真摯に描いていることが重要なポイントと言えるでしょう。

その最たる部分が、ハードボイルド小説的な一人称での展開です。

ローガン自身がベラベラとセリフを喋るのではなく、述懐的に語られる心情は、あくまで主観として語られます。その結果、ローガンの内面が深く掘り下げられる一方で、長年一人で行動してきた一匹狼的な孤独感を浮き立たせることに成功していると言えるでしょう。さらに武士的な価値観を持ちながらも異邦人=外人であり、野生の暴力に身を任せてしまう本質を持っているからこそ、ローガンが武士の域に達しえていない感もまた、彼の一人語りに深みを与えているようにさえ思えます。

そして、この一人語りという流れが、物語を少し引いた視点から観た、静かな印象に拍車をかけます。

忍者やヤクザとの激しい闘争、そしてローガン自身も襲い来る相手の命を奪うことに戸惑いを持たないバイオレンスアクションは、連続した動きを見せるアクション性の高いコマ割りをしながらも、静寂感を伴う「間」を感じさせるものとなっています。

セリフまわしとコマ割りの相乗効果によって、武士の生き方の非情な雰囲気が高まり、そこに身を置き、愛する人を守ろうとするローガンの生き様が浮き彫りになる展開は、クリス・クレアモントとフランク・ミラーという二人のアーティストの「表現力」の高さを感じずにはいられません。

さらに今回の翻訳では、ローガンをメインに描いたミニシリーズの後日譚となる、『アンキャニィX-MEN』♯172、173も収録されています。

こちらは、ライターはクリス・クレアモントが担当していますが、作画はポール・スミスが担当。

タイトルが『ウルヴァリン』から『アンキャニィX-MEN』となったため、ローガンの一人称ではない通常の台詞まわしになっていて、ミニシリーズとは印象が大きく違うことが判るはずです。

とは言え、フランク・ミラーが描いたミニシリーズを踏まえた印象が大事にされています。またその後の展開でも、重要な内容が描かれているため、映画『ウルヴァリン:サムライ』では、この後日譚も意識した展開が用意されています。そういう意味では、この2エピソードを読めばこそ、『ウルヴァリン:サムライ』をより深く楽しめることは間違いないです。

ちなみに、フランク・ミラーはこの後、名作として名高い『デアデビル・ボーンアゲイン』(ヴィレッジブックス刊・品切れ重版未定)にライターとして参加。本作と同じく、主人公のデアデビル=マット・マードックの一人称で綴られる物語となっていて、いわゆるアメコミ的な物語とは異なる深みを感じることができるはずです。

そして、その後にミラーはこの2作を踏襲して、高い評価を得ることになる『ダークナイト・リターンズ』(小学館プロダクション刊)を手掛けることになるという流れを見れば、ミラーの作風の原点がこの『ウルヴァリン』にあるのは間違いありません。

本作で、その作風が気に入ったのであれば、これらフランク・ミラーの作品を追ってみるのもいいでしょう。

そして、本作を原案とした『ウルヴァリン:サムライ』は、この作品を踏まえて果たしてどのように映像化されたのでしょうか? 

次回の更新では、本作の内容を踏まえる形で、映画『ウルヴァリン:サムライ』について紹介していきたいと思っています。

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