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2017.03. 2

マーベル・コミックス

元スーパービランのチームは「シビル・ウォー」にどう関わったのか?
『サンダーボルツ:シビル・ウォー』

今回は「シビル・ウォー・クロスオーバー・シリーズ」の1冊、『サンダーボルツ:シビル・ウォー』を紹介します。

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一癖も二癖もある元ビランチーム、「サンダーボルツ」

これまでの『ニューアベンジャーズ』を中心とした邦訳シリーズを楽しんできた読者にとって、最も記憶に新しい「サンダーボルツ」とは、グリーンゴブリンことノーマン・オズボーンが率い、後に「ダークアベンジャーズ」として再編成されたチームの方かもしれません。
『サンダーボルツ』誌はここまでに100号以上が刊行されており、チームも様々な変遷を経てきていますが、『シビル・ウォー』の真っ只中を舞台とした本作『サンダーボルツ:シビル・ウォー』の時期、チームを率いているのは、創設者であるバロン・ジーモです。
メインメンバーはバロン・ジーモ以下、ソングバード、フィクサー、マッハⅣ、ラヂオアクティブマン、アトラス、ブリザード、スマグラー、ジョイスティック、ソーズマンの10人。
元スーパービランから構成されるヒーローチーム「サンダーボルツ」はそもそも、1997年に展開した大型クロスオーバー『オンスロート』をきっかけに生まれたヒーローチームです。オンスロートとの戦いによって、ファンタスティック・フォーとアベンジャーズのメンバーが戦死(正確には、カウンターアースという別世界に転生)してしまう事態に、バロン・ジーモ率いるスーパービランたちが、その穴を埋めるためにコスチュームと名前を変え、サンダーボルツというチームを結成。ヒーロー活動を始めるという形でスタートしました。
当初は、ビランが自らの野望を達成することを目的とした「偽善」のチームだったのですが、ヒーローとして活動するうちに、彼らにもヒーローとしての自覚が芽生えていきます。
サンダーボルツのメンバーは、スーパービランからヒーローへと転身した、「正義と悪の境界線」にいるチームでもあるわけです。そうした特殊なポジションのチームから『シビル・ウォー』を描く部分が、本作の見所だと言えるでしょう。


登録法賛成派に組みするその真意は?

スタンフォード事件が発生し、超人登録法可決へと至るこの時期、サンダーボルツは、宇宙的存在であり、壮大なゲームに執着するグランドマスターが仕向けたスコードロン・シニスターとの抗争に入っていました。
本作の冒頭でも説明があるように、この時のバロン・ジーモは元チームメイトであるフォトンの暴走を止めるため、新しいサンダーボルツを率いてソングバードが率いるサンダーボルツと戦い、その後、和解してチームの再統合を行ったばかり。チームメイトからの信頼は、スーパービラン時代の行動も相まって無いも同然。実働部隊のリーダーであるソングバードがメンバーをなんとか取りまとめているという、ゴタゴタを抱えた状態でした。
そんな時期に発生したヒーロー同士の内戦は、彼らをも巻き込んでいくことになります。
超人活動委員会に呼び出されたサンダーボルツを待っていたのは、超人登録法賛成派のアイアンマン。ヒーローの内戦が激化するに伴い、スーパービランの活動が活発化している状況を踏まえ、アイアンマンはサンダーボルツにスーパービランを拘束し、超人登録法賛成派の戦力とするよう依頼します。
この申し出を了承したサンダーボルツは、次々とスーパービランを捕縛し、メンバーを増やしていきます。元スーパービランによるヒーローチームは、次第に勢力を拡大、超人登録法賛成派からの信頼を得ていきます。しかしこのチームの増強は、バロン・ジーモが考える、ある別の目的を達成するためのものだったのでした……。

正義の心と悪の心、両方を知るチームならではの視点

「元ビランが本当に善人としてヒーロー活動しているのか?」と疑われ続けているサンダーボルツ。そんな彼らは、登録法によってヒーローとしてのアイデンティティが揺れ動くこともありません。この内戦を俯瞰できる立場にいたとも言えるでしょう。
第二次世界大戦中、父であるハインリッヒ・ジーモがキャプテン・アメリカの相棒バッキ―を殺害し、自らもまた長年キャップの敵として悪行を働いてきた男が、ヒーローの側に立った今、望むものは何なのか?
政府やアイアンマンたち賛成派からの信頼を得て、合法的な形で組織の拡充を図りつつも、裏ではかつての宿敵キャプテン・アメリカとも繋がりを持とうとする。しかし、元ビランらしいこの暗躍にも、バロン・ジーモなりの信念が貫かれていたという展開には、ハッとさせられることでしょう。
前述したように、この時期は、サンダーボルツが「内戦への干渉」と「グランドマスターとの戦い」を同時進行している状況もあるため、他の「シビル・ウォー・クロスオーバー」に比べれば、内戦への直接的な関わりは少ないと思います。しかし「正義と悪の境界線」にいることがアイデンティティであるサンダーボルツが、実は『シビル・ウォー』のクライマックスに大きな影響を与えていて、さらに思わぬところで合点がいく繋がりもあり、読みごたえのある内容となっています。
本作や、以前に紹介した『ヒーローズ・フォー・ハイヤー:シビル・ウォー』もそうですが、こうした主要なヒーローではない登場人物たちの思いを知ることで、『シビル・ウォー』の世界がより広く、深く掘り下げられていくことも確かでしょう。

文・石井誠

2017.03. 1

マーベル・コミックス

【新刊案内】スターウォーズ:ポー・ダメロン ブラックスコードロン(2月28日刊行)

今回は2017年2月28日発売の新刊『スターウォーズ:ポー・ダメロン ブラックスコードロン』をご紹介いたします!

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価格 2,700円+税
ライター チャールズ・ソウル
アーティスト フィル・ノト
翻訳 秋友克也


映画『スター・ウォーズ/フォースの覚醒』前日譚!

本作の主人公は、『スター・ウォーズ/フォースの覚醒』に登場したレジスタンスの敏腕パイロット、ポー・ダメロン。物語は、彼がレジスタンスのリーダー、レイア・オーガナ将軍から、彼女の兄ルーク・スカイウォーカーの居場所を知るという探検家ロー・サン・テッカの捜索任務を依頼されるところから始まります。
ポーはレジスタンスの中から精鋭メンバーを選び、任務遂行のためのチーム「ブラックスコードロン」を結成。テッカが最後に滞在していたという惑星へ向かいます。テッカのことを知るという、謎の巨大な卵を護る養育団との交渉を行っている最中、ポーの相棒BB-8が、ポーの機体から見つけた出したのは何者かによってつけられた発信器でした。間を置かず、ファースト・オーダーのエージェント・テレックスが彼らの前に現れ、上空ではブラックスコードロンとタイ・ファイターの戦闘が始まります……。

『フォースの覚醒』冒頭でポーとテッカが出会うに至るまでの経緯を描いた本作は、映画の世界観そのままで、遊び心もたっぷりの冒険譚に仕上がっています。ポーをはじめとした『フォースの覚醒』に登場するキャラクターの他、これまでのスピンオフ作品のキャラクターも再登場。彼らの大活躍を是非ご堪能ください。

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同時収録は『C-3PO』。
『フォースの覚醒』でC-3POが赤銅色の腕をつけていた理由が明かされる短編です。『スター・ウォーズ』世界の名脇役であるドロイドたちの「思い」に迫る、ファン必読の一作と言えるでしょう。
さらにレジスタンス基地でのBB-8の小さな活躍を描いた、かわいいミニコミックも収録。
『フォースの覚醒』を観た方ならば、誰もが楽しめる一冊となっています。

















2017.02.10

マーベル・コミックス

キャプテン・アメリカとソーに迫る過去の因縁!
マーベル・オリジナル・グラフィックノベル
『アベンジャーズ:エンドレス・ウォータイム』

今回は、『アベンジャーズ:エンドレス・ウォータイム』をご紹介します。本書は、マーベルコミックスが2013年12月に刊行をスタートした『マーベル・オリジナル・グラフィックノベル』シリーズの第1弾にあたる作品です。

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「グラフィックノベル」とは、1978年にウィル・アイズナーが発表したコミック『神との契約』を嚆矢とする、いわゆる「大人向け」コミックを指すジャンル名です。
当時は子供に向けて作られていた「コマが割られてセリフが入る」スタイルでありながら、連載方式はとらないこと、内容も表現も大人の鑑賞を意識して作られていることなどがその特徴と言えるでしょう。
1980年代に入り、アメリカンコミックス業界では、グラフィックノベルが多く出版されるようになりました。その流れに乗るように、1982年にはマーベルコミックスも『マーベルグラフィックノベル』を創刊します。
子供向けのコミックブックと、より大人向けのグラフィックノベルという2枚看板のもとに出版を続けたマーベルコミックスですが、アメコミのファン層が変化するに従い、コミックブック自体が徐々に大人向けの内容へとなっていきました。次第に「子供向け」「大人向け」を区別する必要は薄れていき、1993年に『マーベルグラフィックノベル』は幕を閉じたのでした。
それから20年、マーベルのコミックブックは主に大人に向けた内容で出版され続け、長期連載形式という当初からのスタイルを続けています。
そんな中「単発で大人向けの物語を楽しめる」グラフィックノベルが復活することになりました。それが『マーベル・オリジナル・グラフィックノベル』シリーズなのです。
その第1弾の主人公に選ばれたのは、アベンジャーズ。チームメンバーや設定は、2013年時の「マーベルNOW!」に準じているものの、そうした連載ものとは設定の関連がない、この1冊から読み始めることができる独立したストーリーとなっています。

会議のため、アベンジャーズ・タワーに集まったメンバーたちは、中東の小国スロレニアでの紛争に、アメリカ軍の無人兵器が投入されたことを知ります。
キャプテン・アメリカはそれが第二次世界大戦中に破壊したはずの、ナチスの超兵器ヴァンダーヴァッフェによく似た形状をしていることに気づき、ソーはその無人兵器の「生体」部分が、アスガルドから第二次世界大戦中のミッドガルド(地球)へと逃げ出した邪悪なドラゴンであることに気づきます。現場に向かったアベンジャーズは、その無人生体兵器「アイスハリアー」と交戦。
ナチスの超兵器とアスガルドの邪悪なドラゴンを融合させた強力無比なこの兵器を、一体誰がどのような意図を持って作り上げたのか…という真相に迫ることになります。

ライターは、映画『アイアンマン3』の原案ともなった『アイアンマン:エクストリミス』を手がけたウォーレン・エリス。
過去からやってきたキャップとソーの因縁の敵と、現在アベンジャーズを脅かす陰謀が複雑に絡み合う物語は、要所要所に迫力のあるアクションシーンを加え、コンパクトながらも読み応え満点です。
また「大人向け」を謳うグラフィックノベルらしく、ヒーロー同士の関係性や、各人の思いなど、キャラクターがとても掘り下げられているのも特徴です。コミックブックよりも一歩踏み込んだ描写に唸らされること間違いありません。アイアンマンと他のメンバー間にある距離感を「大人向け」で書くとこうなるのか……など、細かい見どころも詰め込まれています。

連載方式で次々と起こる事件を追っていくのも、アメリカンコミックスを読む醍醐味なのは確かですが、しっかりと練り込まれたこうした「大人の」物語を、1冊完結という形で読むというのは、それとは異なる種類の面白さがあります。
現在邦訳版が刊行されている「マーベルNOW!」とはひと味ちがう、『マーベル・グラフィック・ノベル』が送る大人な味わいを楽しんでみてはいかがでしょうか?

文・石井誠(ライター)

2017.01.30

その他

【本日発売!】アベンジャーズ:ラスト・ホワイト・イベント/ヘルボーイ:地獄の花嫁(1月30日刊行)

今回は本日2017年1月30日発売の新刊『アベンジャーズ:ラスト・ホワイト・イベント』『ヘルボーイ:地獄の花嫁』の2冊をご紹介いたします!

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価格 2,700円+税
ライター ジョナサン・ヒックマン
アーティスト ダスティン・ウィーバー/マイク・デオダート
翻訳 秋友克也


アベンジャーズ新シリーズ第2弾!

『AVX』後のリランチ「マーベルNOW!」で、チームメンバーが再編成され、20人弱の大人数となったアベンジャーズ。『アベンジャーズ:アベンジャーズ・ワールド』に続くシリーズ第2弾がこの『アベンジャーズ:ラスト・ホワイト・イベント』です。

火星を訪れた宇宙の<建設者>ビルダーズの尖兵エクス・ニヒロとその妹アビス。彼らが地球の数カ所に向けて放った「創世爆弾(オリジン・ボム)」によって始まったのは、地球の生命活動の根幹を変化させ、異なるものへと進化させる再創造でした。

その一方、ビルダーズのシステムによって、世界に変革をもたらす“白い事象”が発現。しかし壊れたシステムは、ひとりの冴えない大学生ケビン・コナーに、惑星防衛システム「スターブランド」の力を与えてしまいます。

アベンジャーズは力を暴走させるケビンをなんとか抑え、世界各地で起こる異変に対応しようとしますが……。

本格SFの趣きたっぷりの新シリーズは、この後『ニューアベンジャーズ:エブリシング・ダイ』(既刊)のストーリーとも交錯し、リランチ後のアベンジャーズ誌では初のクロスオーバー『インフィニティ』(本年刊行予定)へとなだれ込み、怒濤の展開を見せていきます。

時系列としては、『アベンジャーズ:ワールド』→『ニューアベンジャーズ:エブリシング・ダイ』→『アベンジャーズ:ラスト・ホワイト・イベント』→『インフィニティ』となっています。

ニューアベンジャーズ誌との併読で、宇宙規模の大スケールをもって描かれるアベンジャーズの大活躍を、目一杯堪能しましょう!


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価格 3,100円+税
ライター マイク・ミニョーラ
アーティスト リチャード・コーベン/スコット・ハンプトン/ケビン・ノーラン/マイク・ミニョーラ
翻訳 今井亮一

ミニョーラの想像力が炸裂する短篇集!

マイク・ミニョーラの看板シリーズ『ヘルボーイ』。これまで各国の神話や民話、オカルト、SFなど多岐にわたるテーマを、ヘルボーイという魅力的なキャラクターを通して描いてきたミニョーラが、彼個人の愛するアーティストたちを集めて作った短篇集が、『ヘルボーイ:地獄の花嫁』です。

全6編中、3編を手がけているのは、アイズナー賞を受賞した『ヘルボーイ:捻じくれた男』でもアーティストを務め、シリーズの準レギュラーとなっているベテラン、リチャード・コーベン。

『ヘルボーイ・イン・メキシコ 酔生夢譚』『邪なる二本立て』、そして表題作『地獄の花嫁』を描いています。

そしてミニョーラ自身が「描くのが怖かったのかもしれない」と語る女吸血鬼の物語『眠れる者と死せる者』を手がけるのは、スコット・ハンプトン。『バットマン:ナイトクライ』や、マジック・ザ・ギャザリングのイラストなどでも知られる実力者です。

今回、ミニョーラ本人が手がけるのは『ウッティア家の遺産』。元はなんと『USAトゥデイ』のウェブコミックとして描かれたものでした。

そしてトリをつとめる最終話『バクスター・オークリー、願いを叶える』を手がけるのは、「アーティストが憧れるアーティスト」にして、ミニョーラのマーベル時代の同期とも言える、ケビン・ノーラン。宇宙人とUFOという、ヘルボーイとしては珍しい題材を、すばらしい筆力で描ききっています。

ルチャリブレ、呪いの屋敷、十字軍、吸血鬼、UFOなど、「王道もの」から「変わり種」まで、バラエティ豊かなラインナップで、『ヘルボーイ:捻じくれた男』と並び、ミニョーラならではのキッチュなアメリカン・ゴシックテイストを堪能できる一冊です。

2017.01.27

映画とコミックで世界最強魔導師の謎めいた素顔に迫る!
映画『ドクター・ストレンジ』&『ドクター・ストレンジ:ウェイ・オブ・ウィアード』

ソーサラー・スプリームの堂々たる銀幕デビューを見逃すな!

いよいよ1月27日より、マーベル・シネマティック・ユニバース(以下、MCU)劇場作品第14作目(フェイズ3第2作目)にあたる、ベネティクト・カンバーバッチ主演の『ドクター・ストレンジ』が公開になります。
これまでのMCUでは、地球をベースにしつつ、神々の世界でありソーの故郷であるアスガルド、ガーディアンズ・オブ・ギャラクシーたちが活躍する宇宙空間と、ストーリーの広がりと共に、描かれる世界も広がってきました。
今作『ドクター・ストレンジ』では、魔法という要素が新たに加えられます。次元を超え、悪魔などが存在する「魔界」との繋がりを示すこの作品の登場によって、MCUは、コミックのマーベルユニバースと同様、多層的な世界観を構築することになります。MCUにとって、この上なく重要な一作と言えるでしょう。
映画『ドクター・ストレンジ』は、予告編などでもすでに描かれているように、主人公である「"天才外科医"スティーブヴン・ストレンジ」が、いかにして魔法を駆使する「"至高の魔導師(ソーサラー・スプリーム)"ドクター・ストレンジ」と呼ばれるようになったかを描く、ヒーロー誕生譚です。
「神の手」と謳われるほどの外科技術を持ち、ルックス、知性、教養、すべてにおいて“完璧”な存在だったスティーブン。しかし唯一の欠点は、その才能を鼻にかけた傲慢さでした。
ですがそんな彼はある日、交通事故によって両腕に傷を負い、メスを握れない体になってしまいます。現代医学に匙を投げられたスティーブンは、かつての栄光を取り戻すため、一縷の望みをかけてカトマンズの治療施設に赴きます。しかし、そこはただの治療施設ではありませんでした……。
具体的なストーリーは映画を観ていただくとして、マーベルユニバース最強の魔導師という荒唐無稽な存在を、MCUの他の世界とつなげ、そこに説得力を持たせるための作劇は、丁寧かつダイナミック。一気に作品世界へと引き込まれる面白さです。
スティーブンと、彼を取り巻く人々との関係性の掘り下げが綿密に行われ、人間ドラマとしても楽しめるため、オカルティックな世界観にもスムーズに入っていけます。
そして何より力を入れて描かれているのが、ドクター・ストレンジの真骨頂とも言える「魔法」の表現です。
これまでコミックの『ドクター・ストレンジ』世界で目にしてきた、幾何学的な、そして歪みのある、魔法に影響された奇妙な情景。これをどう実写において表現するかが、映画化における大きなポイントでした。
実写だからこそできる、無限回廊のだまし絵を三次元化したかのような、美しさと奇妙さが交錯した映像美は、コミックの幻想的な魔法表現とはまた違う味わいを持ち、コミックを未見の方も、コミックファンも、共に虜にする魅力をもっています。
また、BBCのテレビドラマ『SHERLOCK』で一躍人気俳優となったベネディクト・カンバーバッチの演技も秀逸です。傲慢な天才外科医から、その後マーベルヒーローたちの相談役として慕われる人格者へと成長するまでのキャラクターの変化を、見事な演技のグラデーションで見せてくれます。
今後公開されるMCU作品『アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー』において、重要な役割を果たすと思われるドクター・ストレンジのオリジンストーリーとして、まさにベストと言える仕上がり。必見の一作と言えるでしょう。

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ストレンジの奇妙な日常が一転、魔法界を揺るがす大事件に!

続いて、映画の公開に先駆けて発売となった『ドクター・ストレンジ:ウェイ・オブ・ウィアード』を紹介します。
本書は、アメリカ本国での『ドクター・ストレンジ』の公開(2016年11月4日公開)の約1年前となる、2015年12月からスタートした『ドクター・ストレンジ』の最新シリーズになります。すでに映画の撮影が行われていた時期なので、映画版を見据えた上でのスタートだったことは間違いないでしょう。そのため、冒頭には1963年発行の『ドクター・ストレンジ』の実質的な第1話にあたる『ストレンジテールズ』♯110の、ドクター・ストレンジの誕生譚がコラージュされ、物語の導入となっています。
これまで邦訳されてきた作品中でのドクター・ストレンジは、例えば『ニューアベンジャーズ』の切り札的な協力者であったり、またマーベルユニバースの重鎮たちで組織された「イルミナティ」の一員として大事件に対処するような、「渋めの助っ人」としての活躍が描かれてきました。
対して本書は、彼の日常が描写されています。ニューヨークの住民たちの間で噂の、悪魔祓い医師ドクター・ストレンジ。彼の住むグリニッジ・ヴィレッジのサンクタム・サンクトラムには、そんな噂を聞いた「患者」たちが、藁をもすがる思いで訪れてきます。今回、その中のひとりが持ち込んだ「病気」は、この次元に本来いないはずの怪物を原因としたものでした。時を同じくして、世界には魔法的な異変が続発。スカーレット・ウィッチやドクター・ブードゥーら魔法仲間も危惧する中、ドクター・ストレンジは、魔法界最大の危機に立ち向かうこととなるのです……。
本書は、新シリーズの1冊目であるため、ドクター・ストレンジがヒーローとして自らが住むニューヨークの人々とどう関わっているのか、彼がどのような性格で、毎日何を思い、何をして過ごしているのか……といった素顔に迫ると同時に、ユーモラスで魅力的な世界観を、楽しむことができます。
コミックファンにとっては、これまでストレンジが登場してきた邦訳作品では、ほとんど描かれてこなかった部分を知ることができますし、映画を観終わってストレンジというキャラクターが気になったアメコミ未読の方にとっても、映画のサブテキストとしては勿論、初めて読むアメコミとしても、十二分にオススメできます。

ストレンジの個性を光らせつつ、そこで起きる深刻な危機を軽妙に語るのは、ライターのジェイソン・アーロン。オカルト的な描写に偏り過ぎない、そのバランス感覚は見事です。
アートを担当するのは、ベテランのクリス・バチャロ。ドクター・ストレンジの魔法・魔界といった世界観の描写は、アーティストの個性が発揮されるわけですが、本作では、魔法界の生物などの、有機的かつ幻想的な造形などをはじめとして、それがいかんなく発揮されています。

映画公開に合わせて注目度と知名度が高まってきた魔導師ヒーロー、ドクター・ストレンジ。今後の展開を担う重要なキャラクターであることは間違いありません。この機会に、映画と共に本書を読むことで、より深くMCU、そしてマーベルユニバースを楽しんでいきましょう!

文・石井誠(ライター)

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ドクター・ストレンジ:ウェイ・オブ・ウィアード

ジェイソン・アーロン=著

クリス・バチャロ=絵

御代しおり=翻訳

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